福島第一原発事故が起こった時、あなたは何をしていたか覚えていますか?  ほとんどの人が、どうしたらいいか分からず、うろたえていたと答えています。 そして福島県では、多くの子どもたちが甲状腺がんになりました。
あの事故からまもなく6年。
この地震列島で、次の原発事故が起こる可能性は非常に高いことを、みんな知っています。それが起こったら、あなたはどうしますか? 再びうろたえるしかできないのではないでしょうか? そしてやがて病気になった子どもに謝るのですか? 「ごめんね、何もできなくて」と。
でも子どもはあなたに聞くでしょう。 「福島の事故からこんなに長い間、 何の備えもしなかったの?」と。 「ごめん」では済まないことはあきらかです。
事故が起こらないために一番大切なことは、 原発の再稼働を止めることです。 でもそれまでに大地震が来ないとは限りません。それに停止している原発でも危険なのは、福島原発4号機で証明されています。
その時のために準備できることはなんでもやりましょう。2011年の福島事故で、政府も医師も専門家も自治体も、人々を守らなかったことがはっきりしました。 あなたと周りの人を助けることのできるのは、あなた自身しかいません。 まず、ヨウ素剤を手に入れませんか? (文・広河隆一)

ヨウ素剤を手に入れる方法①
自治体を通じて手に入れる

【30キロ県内では保管所に配備されている】

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(写真上・兵庫県篠山市で配 布されている日医 工が製造する丸薬 タイプのヨウ素 剤。1包に1丸入っ ている。薬価は1丸 5.6円(税 込 )。13歳 以上は2丸、3歳以上13歳未満は1丸(50mg)、 生後1か月以上3歳未満は3 分の2丸、新生児は3分の1丸を服用 =守田敏也氏提供)

日本では現在、原発から30キロ圏内(UPZ)ではヨウ素剤を保管施設に配備し、5キロ(PAZ)圏内では事前配布することが国の方針で定まっている。しかし5キロ〜30キロ圏内の住民に事前配布しなくて大丈夫なのか。夜中に事故が起こったら、どのようにして薬を手に入れるのだろう。放射能が漂う中を、ヨウ素剤の保管施設 まで屋外を歩けというのだろうか。
福島原発事故が起きた当時、日本の原子力防災指針は、ヨウ素剤の服用基準を「甲状腺の被曝線量が100ミリシーベルトに達する と予測される場合」と定めていた(現在は基準はなく、原子力規制 庁は事故時は原子力規制委員会が服用の必要性を判断するとしている)。IAEAの服用基準は50ミリシーベルト/週で、原子力安全委員会がおこなった評価によれば、福島原発事故ではこの基準を超えた範囲は50キロにも及んだという。 風向きは寝ている間にも変わり、それにともなって放射能の濃度も変化する。それにヨウ素剤を保管する場所が、必ずしも住民が避難する方向になく、自分の家と原発の間にあるかもしれない。その場合、薬をもらいに行くとよけいに被曝することになる。だから30キロ圏内でも、事前配布にするように求める住民の声が大きい。そして服用基準についても様々な見解があることと、事故時、実際の放射線量が発表されるのは放射性プルームが襲って数時間たってからの可能性もあることを考えれば、事故があったと知ったらすぐにヨウ素剤を服用して、遠方に 避難するというのが、万が一を考えたら最良の選択だといえる。
鹿児島県の川内(せんだい)原発30キロ圏内のいちき串木野市では、ヨウ素剤の事前配布を求める医師、薬剤師を含む住民614人の陳情書を市議会に提出し、2016年12月26日に採択された(注/原発30キロ圏内の京都府舞鶴市、福井県若狭町、小浜町、南越前町、越前町などでもヨウ素剤の事前配布を求める署名運動や自治体への申し入れがおこなわれている。防災訓練では国は、緊急時に自治体職員による1分程度の「簡易問診」でヨウ素剤を住民避難時に配布することでよしとしている)。
自治体内に5キロ圏と30キロ圏の境界線が走るところもある。そのような自治体は、距離に関わりなく全住民へのヨウ素剤の事前配布を求めているが、県や国は、自分たちで資金を準備するならどうぞという姿勢だ。現在30キロ圏内で事前配布が決まっているのは、茨城県東海村の東海原発に隣接するひたちなか市(市の予算でヨウ素剤を購入することを決定し、配布済み)、島根県と鳥取県の圏内住民、川内原発の30キロ圏内に入る出水(いずみ)市(市議会決定)である。

【乳幼児用ヨウ素剤は5キロ圏内では事前配備】

チェルノブイリ事故では苦いヨウ素剤をそのまま飲んだ幼児は吐き出したため、丸薬を砕いてシロップに混ぜてなめさせたケースが多かったという。2016年9月から、大手ヨウ素剤メーカーである日医工が製造するゼリー状の乳幼児用ヨウ素剤が自治体を通じて配布開始された。また、川内原発の30キロ圏内では、16年11月末までに、ゼリー状ヨウ素剤が備蓄された。

【30キロ圏外の自治体でも事前配布が可能】

30キロ圏外の人々が自治体からヨウ素剤事前配布を受けるにはどうしたらいいのか。原発事故が起こったら 30キロ圏だけが放射能に襲われるのではないことは、福島原発事故の経験で明らかだ。チェルノブイリ事故の場合は、原発から280キロ離れた村でも汚染がひどくて廃村になった例がある。さらに甲状腺がん多発地帯のチェルカッシー州は原発から南に340キロも離れている。福島県では小児甲状腺がんがもっとも多発しているのは、原発から60キロも離れた福島市や郡山市である。
出水市の住民も、ヨウ素剤の全市事前配布を求める陳情書に「30キロで命の線引きをしてはいけないのです。放射能は30キロで止まらないのですから」と書いた。
だが30キロ圏外の自治体にヨウ素剤を配備することには国が難色を示す。しかし方法はある。
その一つの成功例は、兵庫県篠山(ささやま)市のケースだ。この実現に尽力した守田敏也さんは次のように言う。
「篠山市は福井県若狭湾の原発から50キロの地点にあります。市は12年に原子力災害対策検討委員会を立ち上げ、私もその委員になりました。翌13年に、高浜原発で事故が起こった場合の放射能拡散シミュレーションを兵庫県が公表し、IAEAがヨウ素剤服用基準としている50ミリシーベルト/週の3倍を超える量の放射能が飛散すると発表しました。そこで市はヨウ素剤事前配布を決定しました。その理由は次のとおりです。

●原発事故時の配布・受け取りの手間をカットすることができること。地震や津波などの場合、ヨウ素剤を受け取りに行くこともできない道路の寸断などが起こったり、配布機能を行政が失う可能性があるため。

●原発事故発生時には簡単な説明しかできない可能性があり、多くの人の不安に答えることができないので、服用を見合わせる人も出る可能性も高いため。

こうして事前配布が開始されたのは、2016年1月からです」

ヨウ素剤を手に入れる方法②
グループを通じて手に入れる

地元の協同組合や企業、健康食品の店、子どものサークルなどが、会員のために医師や保健師を通して注文しヨウ素剤を手に入れている例がある。こうした試みをしているのが、滋賀県の自然食品店、でこ姉妹舎だ。でこ姉妹舎の加納さんは次のように言う。
「ヨウ素剤は、高浜原発の再稼働のときに20人くらいのお客さんと共同購入しました。高浜原発で何か起きたら、ヨウ素剤を飲んで、お子さんとお母さんだけでもすぐに風上に逃げましょうとお客さんに話しました」
でこ姉妹舎でヨウ素剤を手に入れたという匿名の主婦は、大手サプリメントメーカーであるナウフーズの60錠入りを1000円前後で購入したという。福井県の原発が事故を起こした時に服用するつもりだという。
東京都世田谷区の渡辺竜生さんは次のように言う。
「日医工のヨウ化カリウム50ミリグラム丸を10丸所持しています。大人1回分は2丸です。これは石川県羽咋(はくい)市のある団体が一括購入し、2年に1回(直近は15年3月)の頻度で会員向けに配布しているものです。できれば使う機会は来て欲しくないのですが、いざという時は現場からの距離に関わらず、事故を知った時点で服用し、遠くへ逃げるつもりです」 なお、この石川県羽咋市は、1992年には独自にヨウ素剤を購入し、97年から学校や保育所に配備した経験を持つ。

※でこ姉妹舎 問い合わせ先(dekosimaisha@yahoo.co.jp)

ヨウ素剤を手に入れる方法③
協力的な医師などから手に入れる

相談に応じてアドバイスをもらえる良心的な医師や薬剤師は各地にいるはずだ。ヨウ素剤を処方してくれたり手配してくれる場合もあるだろう。川内原発から約35キロ離れた鹿児島市内で医院を営むある医師は、福島原発事故の後、自身も小学生の親として、鹿児島市民を守りたいという思いで購入希望者を募り、日医工のヨウ化カリウム剤(50ミリグラム)を1万錠、薬の卸問屋から仕入れ、仕入れ価の1錠(1丸)5.6円(税込)で診断の上、希望者に渡したという。その時、日本医師会が発行する「原子力災害における安定ヨウ素剤服用ガイドブック」も手渡した。また、福井県のあわの薬局(福井県敦賀市和久野14-13-5。電話0770-25-2082)では、あくまで事前に電話で相談することが前提になるが、店を訪れた本人が薬剤師の指示を受けた上で購入 できる場合があるという。

ヨウ素剤を手に入れる方法④
個人でネットで購入する

一番簡単なのがこの方法だ。インターネットで「ヨウ素剤」と打ち込むといくつかの薬が紹介される。その 中には日本の大手、日医工の薬もある。ただし、日本で購入すれば一錠5.6円ほどなのに、海外を通じてネットで購入すれば一錠(丸)42.5円(大人は2錠服用する) ほどになる。
日医工の製品は医薬品だが、他社のもので栄養サプリメントとして販売されている例もある。製品によって異なるが、大人1回分4錠でせいぜい50円ほどだ(「ナウフーズ」の製品の場合は、大人1日1回4錠、4才〜12才は2錠、1才〜3才は1錠服用などと容器に記入してある)。
医薬品ではなく栄養サプリメントなので薬事法の縛りはないが、選び方、保存の仕方、服用上の注意などは注意書きをよく読んで、自己責任でおこなうということになる。医薬品の場合は、売買は規制があるので調べることが望ましい。
ネットでの購入手続きは個人でもできる。大手通販会社iHerbやアマゾンのサイトから、「ヨウ素剤」「ヨ ウ化カリウム」「安定ヨウ素剤」「Potassium Iodide」などと検索。またはメーカー名で「Source Naturals」(ソースナチュラルズ)、「Now Foods」(ナウフーズ)など で検索。カートに入れて、購入 手続きをする。ただし頻繁に品切れになることもあるようなので、常にサイトでチェックするのが望ましい。
値段は2017年7月末現在、前者は120錠入りで1539円。後者は60錠入りで1240円。これに送料が必要になる場合がある。後者で見ると、これは1錠11円余で、4錠つまり大人1回分で50円ほどにあたる。4〜12歳な ら2錠で約25円弱、1〜3歳なら1錠で約11円。これくらいの値段で、とりあえず最低限の放射性ヨウ素対策ができる。1回の効力は24時間だ。事故が起こったというニュースがあれば、すぐに服用して遠くに逃れるようにしたい。
事故が起こった緊急時には、サプリメントの場合は周りの保護者に配るのもいいだろう。その場合には注意書や説明書を付けて、自己責任で対応するという書面にサ インしてもらうことが将来のトラブルを避けるためにいい。
さらに、日本医師会の「原子力災害における安定ヨウ素剤服用ガイドブック」を参照したい(www.med.or.jp/doctor/report/saigai/yguidebook20140520.pdf)。
なお基本的な副作用などについては、DAYS JAPAN16年7月号ページの特集記事(https://daysjapan.net/?p=1316)を参照してほしい。

個人で手に入れた人々の声

京都八王子市の松田奈津子さん
「買ったのは日医工のヨウ化カリウム50mg丸を20丸です。大人1回2丸を飲むように指示されています。2000年問題で原発に異常が起こるかも知れないと言われた時と、2011年の3・11後に購入しました。原発 事故が起きれば甲状腺に放射性ヨウ素を取り込む可能性が高いので、それを防ぐためです。薬局から購入しましたが、お守りのように携帯しています。実は3・11の時、東京に放射能プルームが到来した日に服用しました」

鹿児島県出水市の永池美保さん
「買ったのは日医工のヨウ化カリウム丸50mgを60丸です。大人は1回2丸を飲むことになっています。鹿児島と宮城の甲状腺の比較疫学調査に参加しており、1年に1回、霧島の病院に行きます。2015年に先生にお願いして、当時小5の息子と私にそれぞれ1か月分を無料で分けていただきました。万が一の時の備えのためです。私の家は川内原発から直線で37キロで、市民全員にヨウ素剤を事前配布するよう申し入れをしていますが、すぐには叶いそうもなかったので自分で用意しました。こんなものを飲んでまで電気を得る必要はないのにと眺めるばかりです。持っているガイガーカウンターが毎時0・2マイクロシーベルトを超えると警戒音が鳴るので、そのまま高止まりするようだったら、先生に電話をして相談して飲むと思います。連絡が取れない時でも飲むと思います。副作用よりも被曝のほうが怖い。県も九電も国も当てにはしていませんから」

京都市の新谷英治さん
「購入したのはカナダのソースナチュラルズ社製のヨウ素剤サプリメント60錠入りビンで、価格は26.3ドル(約3000円)でした。これは医薬品扱いではなくサプリメント扱いで、大人1回4錠服用です。福島原発事故以来、原発事故が起こったらヨウ素剤が必要だということは知識として知っていましたが、急いで用意しようとまでは考えていませんでした。しかし、福島の子どもたちに甲状腺がんが多数発症していることを知って、用意しなければと考えるようになりました。そんな中で、16年6月に小出裕章さんの話を伺ったことが直接のきっかけとなり、ネット上で検索して購入しました。原発事故などで放射性物質の危険が身に及ぶおそれがあるときに使用するつもりです」

※ヨウ素とは?ヨウ素剤とは?

人間の喉には、甲状腺という小さな器官があります。成長に欠かせないホルモンを分泌するところです。ここは海草類などに含まれる自然界のヨウ素を養分にしています。しかし原発事故などで放出される放射性ヨウ素を吸収したら、甲状腺ががんになる可能性がでてきます。特に子どもは大人よりも放射能の影響を強く受けます。放射性ヨウ素が体に入る前に甲状腺を安全なヨウ素で飽和してしまうことが必要です。ヨウ素剤はヨウ化カリウムでできた薬です。ヨウ素剤の効果は、事故による放射性ヨウ素が体内に取り込まれる24時間前からその同時刻までに服用すれば90%、8時間後なら40%、24 時間後なら7%といわれています(原子力災害における安定ヨウ素 剤服用ガイドブック/日本医師会)。

・ヨウ素剤は、殺到するとすぐに売り切れになったり、より高額な物しか残らない可能性があるので、早いうちに準備する必要があります。
・守田敏也氏の関連書籍は「原発からの命の守り方」(海象社) です。
・DAYS被災児童支援募金(DAYS子ども基金)では、ヨウ素剤普及の運動をしています。また原発近くの自治体が議会などで決議した場合、子ども用に限りヨウ素剤の経費を支援することもできます。ご連絡下さい。
shienbokin@daysjapan.net
・いわき市ホームページの「安定ヨウ素剤に関するよくある質問」も参考になります。