モンゴル・アルタイ山脈の遊牧民、カザフの男性たちによって引き継がれ、
同時に長く男性のみの「特権」だった伝統、イーグルハンティング。
その世界に憧れる1人の少女の姿。

写真・文/エリック・ニーランダー
Photo & Text by Erik NYLANDER
DAYS国際フォトジャーナリズム大賞審査委員特別賞

腕のなかのイヌワシは小さな鎧兜のような目隠しをしているが、嫌がったりしない。ハンターとイヌワシ は強い信頼関係で結ばれている。 写真はすべてアルタイ山脈山麓、モンゴル。2017年3月8日
腕のなかのイヌワシは小さな鎧兜のような目隠しをしているが、嫌がったりしない。ハンターとイヌワシは強い信頼関係で結ばれている。
写真はすべてアルタイ山脈山麓、モンゴル。2017年3月8日

イーグルハンターへの憧れ
イヌワシとの出会い

ボール・ダメリ・ショカン(13歳)はモンゴルのカザフの少女で、イーグルハンターになることを夢見ている。イーグルハンターとは、タカやワシなどの猛禽類を飼育・調教して、その鳥を使って狩りをする人のことだ(注1)。イーグルハンティングは2000〜3000年前に、モンゴルで発祥したともいわれている。
ショカン一家は遊牧生活を送っている。「拠点」はモンゴル西部のアルタイ山脈で、西側にカザフスタン、北側にロシアの西シベリア地方が広がる。この山脈の山麓のバヤンウルギー県に住むカザフは、大昔からイヌワシを使った狩りをすることで知られている。最近では趣味や伝統の保存のためにイーグルハンティングをする人も増えたが、ショカン一家ら遊牧民にとっては、まだまだ生活に必要な技だ。

ショカン一家の冬の家の前で、イヌワシが日向ぼっこをしている。一家は夏の間は遊牧生活を送るが、冬はこの家で過ごす。2017年3 月5日
ショカン一家の冬の家の前で、イヌワシが日向ぼっこをしている。一家は夏の間は遊牧生活を送るが、冬はこの家で過ごす。2017年3月5日

遊牧民は昔から、家畜であるヒツジやヤギをオオカミから守るためや、キツネやウサギを捕えてその毛皮を衣類にしたり、現金に換えるためにイーグルハンティングをしてきた。今も彼らは男子が13、14歳になると、イーグルハンティングの訓練を始める。それがこの1〜2年、急に女の子もやりたがるようになった。昨年、ゴールデンイーグル祭りという地元の大きな大会で、アイルショパン・ヌルガイというカザフ族の少女が、大人の男性たちを破って優勝したのがきっかけだ。一人前になるまで6〜7年はかかるといわれる中、訓練を始めてわずか1〜2年の彼女の優勝は、大きな快挙だった。ドキュメンタリー・フィルム(注2)が国際的なチームによって作られ、テレビにも出演し、国民的スターとなった。いまや彼女はモンゴルの少女たちの憧れの的なのだ。

冬の家で、妹と眠っているボール。ベッドの隣で目隠しをされたイヌワシが、止まり木につかまって眠ってい る。2017年3月7日
冬の家で、妹と眠っているボール。ベッドの隣で目隠しをされたイヌワシが、止まり木につかまって眠っている。2017年3月7日

ボールも彼女に憧れているが、彼女がイーグルハンターを夢見るのはそればかりではない。彼女は年上の男兄弟がいないので、幼いころからヒツジやヤギの世話を手伝ってきたし、祖父や父親のイヌワシの面倒もみてきた。そしてイヌワシにすっかり魅せられてしまったのだ。しかしイーグルハンターは男の仕事と思っていたので、自分がその訓練を受けられるとは思ってもいなかった。それを打ち破ったのが、アイショルパンであり、父親だった。保守的な考え方をする男性の多いモンゴルで、父親は彼女に理解を示した。「女の子がイーグルハンターになることはいいことです。でもすべての女の子がなれるわけではない。体力と腕力、それに情熱が必要。その点で、娘は向いていると思います」と、父親はボールに期待する。彼も14歳のときから祖父に習い始め、これまで10羽のイヌワシと狩りをしてきた。ボールはまだ数回しか訓練を受けていないが、父親は近々、本格的な狩りに連れていくつもりだという。

山の高台から大空に向けて、イヌワシを飛び立たせる訓練をしている。零下40度にもなる戸外での訓練は厳しい。2017年3月6日
山の高台から大空に向けて、イヌワシを飛び立たせる訓練をしている。零下40度にもなる戸外での訓練は厳しい。2017年3月6日

イヌワシと二人三脚
訓練の日々

ボールはすでに、引退した祖父から譲ってもらったイヌワシを所有している。調教は冬の初め、10月ごろから始める。雪原のほうが獲物が見つけやすいからだ。ショカン一家は、冬はゲル(テント)ではなく、冬の家で過ごすが、夕方訪れると、ボールはいつも片隅に膝まずいて、止まり木にいるイヌワシに静かに話しかけながら、キツネの生肉を与えていた。幼いころから世話をしているので、よくなついている。寝るときもベッドの脇に置いて、気を配る。イヌワシはとても高度な知能をもった鳥で、ハンターである主人との信頼関係がないと、狩りもうまくいかない。絆がとても大事なのだ。

イヌワシを訓練するのは、10月初めの雪が降り始めるころだ。新雪の雪原に獲物がよく見える。2017年3月22日
イヌワシを訓練するのは、10月初めの雪が降り始めるころだ。新雪の雪原に獲物がよく見える。2017年3月22日

訓練はまず、肘まである大きな皮の手袋を、片手にはめることから始まる。拳の部分がいわば止まり木となり、ハンティング中はイヌワシを常にこの上に乗せる。ボールのイヌワシは体重が7キロもあるので、片腕の先端で、馬に乗ったり山に登ったりしながら、数時間も支え続けるのは大変な負担だ。
まず、一通りの命令を覚えこませる。次に、「ホ〜イ、ホ〜イ」というような言葉をかけながら、飛び立たせたり、呼び戻す訓練をする。飛び立たせるときに、頭に被せた小さな鎧兜のような目隠しを外す。イヌワシは一瞬目をしばたたせるが、すぐに飛び立つ。ハンターと意気があうと、まっすぐに飛び立ち、美しいカーブを描いて戻ってくる。最終的には、生肉を忍ばせたキツネの皮を襲わせる訓練などもする。

アルタイ山脈を見晴らす斜面を行く、ボールとイヌワシ。女性ハンターは現在、3人とも5人ともいわれる。いつか一人前になるつもりだ が、どのくらい続けられるか分からないという。2017年2月20日
アルタイ山脈を見晴らす斜面を行く、ボールとイヌワシ。女性ハンターは現在、3人とも5人ともいわれる。
いつか一人前になるつもりだが、どのくらい続けられるか分からないという。2017年2月20日

 どの訓練でも下手をすれば、狩りのときには武器になるイヌワシの鋭い爪や鉤状の嘴が、ハンターの腕や顔を傷つけかねないが、「怖いと思ったことは一度もない」とボールは断言する。
狩りには主にメスのイヌワシを使う。メスのほうが大柄で狩猟本能が強いからだ。オスはネズミで満足するが、メスは子育ての習性があるのでキツネなど大きい動物を狙う。
家族のように暮らしたイヌワシとも、7、8年するとお別れ。繁殖させるために野生に戻すのだ。それがカザフのルールだ。春の晴れた朝に、青い空に向かって慣れ親しんだイヌワシを放す。「ホ〜イ、ホ〜イ」と呼び戻さなければ、イヌワシは翼を広げて飛んでいく。どこまでも、どこまでも。
(構成・翻訳/野口みどり)

エリック・ニーランダー
フォトグラファー。1985年、スウェーデン生まれ。2017年にカレッジ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤーのインターナショナル・ピクチャーストーリー部門で1位に輝いた。