シリア内戦における最大の激戦地となったアレッポ。
反体制派の流入や、アサド政権軍とロシア空軍による爆撃によって、多くの住民が避難を余儀なくされた。
生き延びた人々は、瓦礫の街で負の記憶を抱えながら暮らしている。

写真・文/クリスチャン・ヴェルナー
Photo & Text by Christian WERNER
DAYS国際フォトジャーナリズム大賞 パブリックプライズ

道をふさぐため、車の残骸でバリ ケードがつくられた。場所はすべて アレッポ、シリア。2017年1月5日
道をふさぐため、車の残骸でバリケードがつくられた。場所はすべてアレッポ、シリア。2017年1月5日

残骸の中、アサド政権を支持する人々

体の芯まで凍えるような1月の夕刻、無惨なまでに破壊されたアレッポ東部アルシャール地区にある精肉店の前で、5人の男たちがドラム缶のたき火を囲んでいた。ズボンは汚れ、顔はすすだらけ。水道は長い間、止まったままだ。毎晩男たちはここに集まり、瓦礫の中から拾ってきたテーブルの脚やいすを燃やし、暖をとる。彼らが暮らすアパートの残骸に暖房器具はない。
「やっと恐怖から解放されたよ」と精肉店の店主、アハメド・トゥバルは言う。4年以上にわたって、さまざまな反政府勢力が、入れ替わりながらこの地区を支配していた。だが、しばらく前にシリアとロシアの戦闘機が反政府勢力を一掃した。同時に、アレッポの半分は瓦礫に変えられた。

自分たちの元の家を登録するため列をつくる女性たち。2017年1月11日
自分たちの元の家を登録するため列をつくる女性たち。2017年1月11日

街に残る住民は、バシャール・アサド大統領の支持者だけだ。「イスラム原理主義者を追いやるには爆撃が必要だった」と、小柄で疲れた目をしたアハメドは言う。「爆撃がなければ、あいつらは絶対に出て行かなかった」
別の男もアサド政権を支持する。「俺たちは疲れ果てていた。もう終わりにしてほしかった。街を破壊し尽くさないと終わらないなら、代償としてそれを受け入れるまでだった」
独裁者のアサド大統領が支配し続けてきたシリア西部の街々を訪れるのは、まるでこの世の終わりを見に行くようだった。アレッポでは今、廃墟の中を水のタンクをいっぱい積んだメルセデス・ベンツの大型トレーラーが走り抜け、ロシア軍兵士たちの武装車両がパトロールしている。テレビにはアサド大統領の姿が繰り返し映し出され、多くの住民の目に恐怖が浮かんでいる。
猫を捕まえた少年。食料不足だった戦闘中は猫が60ドルで食料として売買されていた。2017年1月11日
猫を捕まえた少年。食料不足だった戦闘中は猫が60ドルで食料として売買されていた。2017年1月11日

戦争の記憶

彼らの街に戦争がやって来たのは、2012年のラマダン(断食)が始まった時期だった。アハメドの家の前で、覆面をした戦闘員が、走っている車めがけて対戦車砲を放ち、乗っていた4人が焼死した。焼けた4人の顔の残像は、いまもアハメドの心に残っている。アハメドはその後すぐに隣の店へと走り、自分と妻、2人の子どもたちの食料を買い込んだ。その日から20日間、一家は自宅のアパートから一歩も外に出なかった。だが、食料を食べ尽くした後は、戦争とともに生きる術を身につけるしかなかった。

破壊の跡を眺める少年2017 年1月11日
破壊の跡を眺める少年2017年1月11日

アレッポを支配した反政府勢力の戦闘員のほとんどは、アレッポの周辺地域から流れ込んで来ていた。彼らが所属していた組織は穏健なものもあれば、過激なものもあった。やがて、それらの多くは宗教色を強めていった。アハメドが暮らす地域を支配していた戦闘員たちは、住民に飲酒を禁じ、やがて喫煙も禁止した。もともと信心深いアハメドはそれらの禁止令には困らなかったが、反政府勢力のリーダーがカラシニコフ銃をぶら下げて金曜の礼拝に現れるのには我慢ならなかった。彼はモスクに通うのをやめ、イスラム原理主義者たちによる洗脳を恐れて、子どもを学校に行かせるのをやめた。
暖房用の木材を探す子どもたち。2017年1月11日
暖房用の木材を探す子どもたち。2017年1月11日

殺戮による勝利の未来は

アハメドの店の前で5人の男たちが暖をとっている間も、遠くから空爆の爆撃音が響いてくる。背の低い男が笑みを浮かべながら近寄って来ると、急に泣き出した。そして二言三言、何かつぶやくと、じっと炎を見つめた。「彼はモハメド。爆撃のせいで心を病んでしまったんだ」と1人が教えてくれた。モハメドは泣く、笑うを何度か繰り返すと、瓦礫に向かって歩き出し、やがて暗闇に姿を消した。
政府が支配し続けたアレッポの西部は、戦争の被害が比較的少ない一方、反政府勢力が支配した東部は、歴史的な建造物の破壊を含め、戦争行為の見本市のような光景だ。それでも住民たちは、この地区に少しずつ戻ってきている。彼らは爆破されて寒風の吹き込むアパートの部屋にマットレスを運び込み、店を再開し始めた。

破壊された建物の上に、迫撃砲対策として反政府勢力が壊れたバスを積み上げた。2017年1月12日
破壊された建物の上に、迫撃砲対策として反政府勢力が壊れたバスを積み上げた。2017年1月12日

政権側は当初から、過激な手段に訴えなければ勝利できないと考えていた。その結果が、政権側の空爆による何千人もの民間人の死者だ。アムネスティ・インターナショナルの報告書によれば、首都ダマスカスのサイドナヤ軍刑務所で、最大1万3000人が集団処刑された上に、拷問やレイプが組織的に繰り広げられていたという。
アサド大統領はロシアやイランなどの強力な同盟国に支えられ、軍事的に優位な立場にある。しかし、力による支配が維持できるという保証はどこにもない。

通りを走るロシア軍の戦車。2017年1月12日
通りを走るロシア軍の戦車。2017年1月12日

アハメドの店の向かいにある建物のバルコニーで、シャンデリアの残骸が風に吹かれ、チリンチリンと鳴っている。ハムジという男の子がいつものように店に入って来て、彼の部屋の中に何週間も放置されたままの砲弾を取り除くのを手伝ってくれる人を探している。「家に入るのが怖い」とハムジは言う。彼の両親は行方不明のままだ。
暗くなった通りを、アハメドの店の照明がほのかに照らしている。少年たちがキャッチボールをしているが、投げているのはボールではなく大口径の弾丸の薬きょうだ。「ひとつの世代がごっそりいなくなった」とアハメドは言った。
(構成・翻訳/田村栄治)

クリスチャン・ヴェルナー
フォトジャーナリスト。1987年ドイツ生まれ。タイム誌やワシントン・ポストなどに写真を提供。