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福島県県民健康調査検討委員会で、甲状腺の専門医である清 水一雄委員がいろんな質問をしても、回答はほとんど出てきません。「検討していない」「患者のプライバシーだから」と……。Wire art by OSHIDORI Ken

甲状腺がんの進行 早すぎない?

「第25回福島県県民健康調査検討委員会」の取材で、福島に行ってきました。2016年12月27日という年の暮れに重要な会議を持ってきた……。

福島の原発事故が起きた11年3月11日時点で18歳以下だった福島県民(子どもたち)を対象にした甲状腺検査も、県民健康調査の一環です。20歳までは2年ごと、それ以降は5年ごとにおこなわれています。1巡目の甲状腺検査(「先行検査」といいます)は、11年4月1日までに生まれた子どもが対象なんだけど(つまり3月11日時点でお腹の中にいた赤ちゃんも対象)、2巡目(「本格検査」といいます)以降は、12年4月1日までに生まれた子どもも対象になりました。でも、3巡目に入った時には、それ以降に生まれた子どもは検査対象になりませんでした。後述するけど、私はここにも問題があると思います。

今回の発表では、本格検査(2巡目)の結果が追加され、対象者38万1282人のうち、およそ7割の方の検査結果が出ていました。小児甲状腺がんの「悪性な いし悪性疑い」の方は、前回の発表から9人増えて68人でした。先行検査(1巡目)で診断された116人(うち良性1人)と併せて、合計184人(うち良性1人)になりました。

今回発表された「悪性ないし悪性疑い」の68人の方々が1巡目に検査を受けた時の結果は、以下の通り。甲状腺にのう胞も結節も何もないA1判定が31人、5ミリ以下の結節や20ミリ以下ののう胞があるA2判定が31人、5・1ミリ以上の結節や20・1ミリ以上ののう胞があるB判定が5人、未受診が1人でした。

2巡目の検査で甲状腺がんが「悪性ないし悪性疑い」となった方々のうち、31人も1巡目でA1判定を受けていたことに驚きます。つまり1巡目では、甲状腺にのう胞も結節も何も無かったんだよね。甲状腺がんは進行がとても遅いといわれているのに、たった2、3年で、摘出手術をするサイズのがんになってしまった。進行が早すぎるのです。子どもは進行が早いケースもあるそうだけれど……。

ちなみにこの判定区分は、福島で小児甲状腺検査を始める際に、福島県立医科大の県民健康管理センターが決めたものであって、この検査専用だからね! 日本にもともとあったガイドラインではありません! ここ間違えている方が多いのでお気をつけ遊ばせ!A2判定は「異常なし」ではなく、あくまでも「経過観察」なのです。「5ミリ以下の微小がんがあったとしても、経過観察(前述のとおり、福島では、20歳までは2年ごと、それ以降は5年ごとの検査)で診る」という意味で、B判定と分けるこの区分が作られました。でも、小児甲状腺検査を実施したり補助費用を出したりしている福島県以外の自治体でさえ、A2判定を「異常なし」としてしまっているところがけっこうあります……。

 

チェルノブイリで分かった
比較検討の重要性を無視する「専門家」たち

「第25回福島県県民健康調査検討委員会 」の様子。 福島県福島市。2016年12月27日
「第25回福島県県民健康調査検討委員会 」の様子。
福島県福島市。2016年12月27日

そしてもう1点、甲状腺がんの男女比について。68人のうち男子は31人、女子は37人。甲状腺がんは女性ホルモンなどの影響で、女性の発症率が圧倒的に多く、国立がんセンターの0〜19歳の小児甲状腺がんの平均男女比をみても、女子が3倍くらい多い。だけど、福島での検査では男女比が1対1・2と性差がなくなってきています。つまり、男子が増えているのね。男子の発症率が気になるというのは、DAYSの16年8月号にも書きましたが、どうしてでしょうか。検討委員会でも、医師の清水一雄委員がこの3年半で7回も質問されています。

清水委員は、甲状腺外科の専門医として、チェルノブイリ原発事故後、現地に何度も行って手術をされていました。そして、原発事故後の小児甲状腺がんは、男子の割合が増えていると知ったんだって。だから、福島の検査で男子の発症率が増えているのが気になったんですって。そのことを、私は13年の時点で清水先生から聞いていました。

で、昨年9月に福島で笹川財団が中心となって開催した「福島国際専門家会議」(日本財団主催)なるものがありまして、「福島における甲状腺課題の解決に向けて〜チェルノブイリ30周年の教訓を福島原発事故5年に活かす」というテーマでした。もちろん、2日間朝から晩までみっちり取材してきました。

ベラルーシ医学アカデミーのデミチク先生の発表が興味深かったです。甲状腺がんになった子どものうち、原発事故後に生まれた子どもを「非被曝群」、原発事故を経験した子どもを「被曝群」として比較したものの発表。リンパ転移や浸しん潤じゅん(がんが周りに広がっていくこと)は、2つの群を比較してあまり差はないけど、遠隔転移と男女比は差が大きかったとのこと。被曝群の方が、遠隔転移率がかなり高く、男子の発症の割合も高くなり、男女比の差が小さくなるそうです。

チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺がんの男女比についての報告は、これが最初ではなく、今までもロシア、ウクライナ、ベラルーシで発表されています。

そしてね、ここからが重要なところ。チェルノブイリ原発事故後の甲状腺検査は、原発事故後に生まれた子どもたちも検査対象としているからこそ、被曝群と非被曝群の比較ができたの。だから小児甲状腺がんが被曝の影響により増えた、と結論づけられたのです!

チェルノブイリで非被曝群となった1987年4月以降に生まれた子どもは、福島でいうなら、2012年3月以降に生まれた子どもになります。はい、それでは前述の甲状腺検査の対象年齢を見てください。2巡目の検査から12年4月1日までに生まれた子どもが検査対象に含まれたけれど、そこまで。つまり、本当に被曝の影響を調べたいなら、チェルノブイリでそうしたように、それ以降に生まれた方々も検査対象にすべきなのね。

なぜ、検査しないの? 2巡目の検査対象が決まった13年から、私は各所でこのことを取材し続けています。当時の福島県の回答は「この甲状腺検査は、被曝の影響の有無を調べるのではなく、県民の不安解消のためなので。事故後生まれた子どもを検査し続けることは『事故の影響があるのか』という風評被害になる。県としては、出生率を回復することも重要」ということでした。

検討委員会後の記者会見でも、「なぜ、男女比の問題を放置するの?」と私は質問しました。前述のとおり、清水委員が委員会で男女比のことを質問したのは、3年半前から数えて7回目。以前は「まだ結果が出そろってない、途中経過だから」との回答でしたが、今回は「あくまでも結果を出しただけで検討はしていない」とのこと。

いつ、男女比の検討をするのでしょうか。チェルノブイリ後の男女比のデータに限らず、福島原発事故後には、日本でも参考になるデータが発表されています。たとえば、大分の野口病院が出した、1961〜2013年に同病院で治療した19歳以下の甲状腺がん、乳頭がんの128症例です。男女比は15対113で圧倒的に女子が多い。なぜ、こうした小児甲状腺がんの男女比に関して出されているデータや論文を集めて、検討しないの? なぜこの疑問は3年半、放置されているの? と質問しました。すると、「臨床とスクリーニングは違う」とか言われましたが、スクリーニング効果の性差の論文もいろいろ読んだ上での質問だったんです。でも、「まだ検討していない、これから」と一点張り。あーあ。

前述の福島国際専門家会議は、「甲状腺検査は縮小してもいいんじゃない?」というような提言をまとめ、12月に福島県に出しました。でもね、その提言には、ベラルーシのデミチクなどの専門家が、チェルノブイリ原発事故の甲状腺検査について発表した内容は全く反映されていませんでした。だって、提言を作った方々はあまりその発表を聞いてなかったもん。会場の外でコーヒー飲んでた方もいます。

私、意地悪だから、誰が誰の発表を聞いてなかったかも取材してるんだぜ☆ だから「専門家」の出した会議の「提言」「とりまとめ」だけで判断するのは怖いよね。原発事故から6年、どの会議で何が話し合われ、それがどういう取りまとめになってるか、つぶさに追ってきた私にとって、「わー、ムチャクチャ!」と言いたいことばかりです。