妊娠ストールに拘束されている母豚たちは、90度程度しか見渡せない。首を横に曲げることもできない。彼女たちから見える景色はとても狭い。近畿地方。2013年 Photo by Animal Rights Center
妊娠ストールに拘束されている母豚たちは、90度程度しか見渡せない。首を横に曲げることもできない。彼女たちから見える景色はとても狭い。近畿地方。2013年 Photo by Animal Rights Center

身動きすることもできない小さな檻に閉じ込められ、一生子どもを産ませ続けられて殺される雌豚。麻酔もなく身体を切断される子豚……。日本の養豚産業では、すでにEU諸国で禁止となっている苦痛だらけの飼育法が、いまだ主流になっている。
文/岡田千尋(NPO法人アニマルライツセンター代表)、写真/NPO法人アニマルライツセンター

妊娠ストールに閉じ込められた母豚たち。最小限の面積しか与えられず、可能な限りの頭数が飼育場の中に押し込められている。2015年 Photo by Animal Rights Center
妊娠ストールに閉じ込められた母豚たち。最小限の面積しか与えられず、可能な限りの頭数が飼育場の中に押し込められている。2015年 Photo by Animal Rights Center

知的で清潔な豚の日常

本来、豚はとても好奇心が旺盛で、活発で、きれい好きな動物だ。彼らは1日の実に75パーセントを、餌を探したり、穴をほったり、草を食んだりして過ごす。新しいものを見つければ鼻を押し付けて匂いをかぎ、その感触を確かめる。走り回り、仲間同士で遊ぶ。彼らは、20種類ほどの鳴き声を使ってお互いにコミュニケーションをとっていると言われているし、頭がよく、ものごとを学習する能力と、これから起きることを予測する能力を持っていることも多くの動物行動学者らの研究によって明らかになっている。母豚は、子どもを安全に産める場所を探すために何キロも歩きまわり、10時間ほどをかけて巣を作ることも知られている。

彼らはそして、泥浴びが大好きだ。泥遊びには体温を調節する意味があり、すぐに蒸発してしまう水よりも冷却効果が長続きする泥を好む。泥浴びにはハエや寄生虫を寄せ付けない効果もある。

きれい好きな彼らはスペースさえあれば自分の寝床と食べる場所、排泄をする場所を分ける。そして土や草を食べてミネラルを補給し、日光浴をすることで、身体を殺菌したり心身の健康を保っている。

群れで動く豚は、動きまわり、仲間とコミュニケーションをとっている。しかし、妊娠ストールの母豚は仲間と触れ合うことすらできない。関東地方、2014年 Photo by Animal Rights Center
群れで動く豚は、動きまわり、仲間とコミュニケーションをとっている。しかし、妊娠ストールの母豚は仲間と触れ合うことすらできない。関東地方、2014年 Photo by Animal Rights Center

自由を奪われる母豚たち

「妊娠ストール」飼育をされている豚は、このような自然な行動をする自由がすべて奪われている。

妊娠ストールとは、食肉用の豚を繁殖するために飼育される母豚を拘束する、体がぎりぎり入る大きさの檻のことをいう。1960年代にアメリカで開発され、一気に広まった。妊娠ストールに閉じ込められた豚たちは、方向転換をすることも、まして首を横に曲げることもできない。エサは目の前のエサ箱に落ちてきて、それを食べるだけ。足を伸ばして横たわれば隣の母豚にぶつかるため、足を伸ばして寝ることすらできない。どんなに体を動かしたい、檻から出たいと願っても、それがかなうことはない。

彼女らはストレスのため、目の前の柵を噛み続けたり、口に何も入っていないのに口を動かし続けたり(偽咀嚼)、水を飲み続けたり、通常はしない犬のおすわりのような姿勢で座ったりという、異常行動が多くなる。また、ストール飼育中はけがや病気も多くなる。足腰が弱り、起立不能になることもあれば、ずっと同じ体勢でいることを強いられるため、褥瘡(じょくそう=圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部がただれたり、傷ができたり壊死したりすること)ができる。彼女らがこの檻から解放されるのは、1年のうち、種付けされる数日間と、赤ちゃんを産むために分娩ストール(妊娠ストールと同様に身動きが取れない拘束檻)に移動する時だけだ。彼らは「拘束」という虐待を受け、さらに「退屈」という虐待を受けている。

分娩ストールの母豚と、生まれた子豚。母豚は自分から子豚に寄ることもできず、母子は子どもが生後3週間になった時点で離され、二度と会うことはない。母豚にはまた次の繁殖が待っている。日本。Photo by Animal Rights Center
分娩ストールの母豚と、生まれた子豚。母豚は自分から子豚に寄ることもできず、母子は子どもが生後3週間になった時点で離され、二度と会うことはない。母豚にはまた次の繁殖が待っている。日本。Photo by Animal Rights Center

自身が障害を持って生まれ、障害を持つ人の自立支援をおこなうカウンセラーの安積遊歩(あさか・ゆうほ)さんは、妊娠ストールに拘束される豚を自身の体験に重ね、アニマルライツセンターの「お母さん豚を閉じ込めないで」キャンペーンへの賛同メッセージの中でこのように書いている。

「(私の場合、)生まれたはいいけれど、福島県の片田舎での大学病院の医療は、私の身体の自由をありとあらゆる方法で強烈に奪いました。20数回の骨折と、そのうえ生体実験のような手術を8回受けました。その度ごとにギプスが使われ、足先から胸元までそれに覆われ、延べで約5年間、動き回る一切の自由を奪われました。

妊娠ストールに入れられている母豚は、あの時の私と全く同じです。立ち上がることも回転することも、首を上げることすら奪われているということがどういうことなのか、私にはあまりにもよく分かります。生き物としてこの世に命を受けたこと自体を呪い、恨んでしまいたくなること。(私が幼い頃、)大人たちは、私が骨折のたびに泣き叫んでいると完全に勘違いしていました。しかし、私があのときに泣き叫んでいたのは、骨折の痛み以上にその状態が悲惨で、過酷だったからです。それは身体の自由を奪われることによっての強烈な苦痛、辛さでした」

妊娠ストール飼育をしている養豚農家で死亡した子豚。子豚の死亡率は9.66%にのぼる。日本。2014年 Photo by Animal Rights Center
妊娠ストール飼育をしている養豚農家で死亡した子豚。子豚の死亡率は9.66%にのぼる。日本。2014年 Photo by Animal Rights Center

世界的動物福祉の流れに逆行

今、日本の豚は海外の豚よりも不幸になりつつある。妊娠ストールは、海外で次々と廃止されていっている。「動物をとても苦しめるから」という人道的な理由でだ。EUでは2013年に使用が禁止されたし、アメリカの9つの州とニュージーランド、オーストラリアでもすでに禁止、または段階的な禁止が決定されている。食肉を扱う飲食業界でも、欧米のマクドナルドやウェンディーズ、バーガーキング、サブウェイ、スターバックスコーヒーなどのファストフード店、食品会社大手のカーギルやホーメルフーズ、スミスフィールド・フーズなどが廃止を宣言している(※いずれも日本国内の支社や店舗は除く)。

一方、日本はこの世界的な動物に配慮しようという流れに逆行している。日本では、14年の調査で88・6パーセントの養豚農家がこの妊娠ストールを使っていることが明らかになった(農林水産省調べ)。07年の調査では83パーセントだったから、増加していることになる。

豚の繁殖についてはすでに、妊娠ストールを使わなくても経済的には生産量は落ちないことが、EUを中心とする養豚場での実績で立証されており、さらには、群れ飼育や放牧のほうが、母豚自身が健康であるというメリットも報告されている。個別に餌の量を調整したいという養豚農家の要望をかなえる方法も開発済みだ。つまり、世界に逆行して日本で妊娠ストールが増加しているのは、動物への配慮が軽視されているからに他ならない。

欧米ではすでに、アニマルウェルフェア(動物の福祉)への取り組みが企業の評価基準になり、食肉企業やファストフード店、スーパー、ホテルなどがこぞってアニマルウェルフェアに取り組み、発表している。日本の生産者や企業、政府はこの流れにまったく追いついていないが、ひとつだけ希望がある。それは、日本の消費者は企業よりももう少し賢く、87・7パーセントの人々が、妊娠ストール飼育を「やめてほしい」「代替手段があるならやめてほしい」と答えていることだ(注1)。

この消費者の気持ちに応え、生産者、企業、行政は、動物への配慮を重視し、妊娠ストールを廃止する方向に舵をきるときが来ているのではないだろうか。そして消費者自身も、その声を企業に届け、自身の消費行動を見なおす必要があるだろう。

(注1)「畜産動物に関する調査」2014年12月 NPO法人アニマルライツセンター調べ(民間調査会社のモニターを利用したインターネット調査による。全国の15~59歳男女を対象、有効回答数1188)

食肉処理場の前で殺されるのを待つ豚たち。日本。2015年 Photo by Animal Rights Center
食肉処理場の前で殺されるのを待つ豚たち。日本。2015年 Photo by Animal Rights Center

食肉にされる豚たち、日本の現状

豚舎の中で何が起きているのか

日本では、年間約1600万頭の豚が食用に殺されているが、放牧されている豚はほとんどいない。日本のほぼ100パーセントの豚たちは一生を養豚場や畜産工場の中で過ごす。では、日本の一般的な養豚場や畜産工場で生まれた豚たちは、どのような過程を経て食肉に「加工」されていくのか。そこには、すでに欧米諸国では禁止されているようなことが、改善もされずにまかり通っている現状がある。

まず、生まれた子豚たちは、生後3週間で母豚から引き離される。本来、子豚の離乳は突然なされるものではなく、生後3週から少しずつはじまり、完全に離乳するまでには13~17週間程かかるものだ。しかし、養豚場では、生後3週間以降、母子が会うことは二度とない。

母豚から引き離された子豚が入れられるのは、トイレも、食事も、寝るのも同じ小さな檻だ。泥浴びが大好きな彼らの体を覆うのは、泥ではなく自分の糞尿。体だけでなく、頭も顔も糞尿にまみれている。臭くて汚いだけではなく、不衛生だ。その不衛生な豚舎には、豚たちの探索欲求や好奇心を満たすものはなにも無く、豚たちはコンクリートやすのこの上でただ息をしている。

EUでは、豚の最低限の保護基準として、養豚業者に向けた規定の中で「豚には、適切な手なぐさみ(物をいじる行為)の行動ができるように、藁、干草、木、おがくず、泥炭など、健康を損なわないものをつねに十分与えること」と指示されている。好奇心旺盛な彼らにとって、地面を掘ることも、遊ぶことも、探索することもできない環境は苦痛以外の何ものでもない。

さらに、日本の養豚場は、とても狭い。19・8パーセントの養豚場では、1頭あたり0・65平方メートル以下しか与えられていない(注2)。これは、たたみ1畳の約3分の1の狭さである。豚が横たわるためには約0・82平方メートルが必要なので、彼らは満足に横たわることすらできない。当然、動きまわることもできない。

無麻酔での体の切除

豚にとっての苦痛は、この狭くて退屈な環境だけではない。麻酔無しでの体の部位の切除だ。

生まれたばかりの子豚は、歯をニッパーで切断される。これは「母豚の乳房を傷つけたり、豚同士で傷つけ合ったりするのを防ぐため」という理由でおこなわれてきた。しかし実際にはそのような影響がほとんど無いことがすでに分かってきているが、63・6パーセントの養豚場がいまだにおこなっている(注2)。

次に、豚たちはしっぽを切断される。しっぽには当然、末梢神経が通っており、切断には痛みが伴う。しかし、豚のクルンと丸まった特徴的なしっぽは、日本の81・5パーセントの養豚場では見られない。彼らは、活発な探索欲求の転嫁行動として、仲間のひらひらとした尻尾にかじりつくため、あらかじめ切っておくのだ。しかしこれも、放牧飼育では尾かじりは起こらないことが報告されているし、EUではすでに、日常的な歯の切断はすでに禁止され、尾の切断はフィンランド、スウェーデン、ノルウェーで禁止されている。

さらに、約95パーセントの雄豚は、麻酔なしで去勢手術がなされる。肉の「雄臭」を防ぐためだ。ふぐり(陰嚢)部分に切込みを入れ、睾丸を取り出して一気に引き抜いて切る。子豚たちは激しい悲鳴を上げ、無麻酔で去勢されることで、心的外傷性疾患により死亡したり、処置後に腹膜炎を起こして死亡したりする子豚もいる。ストレスから発育や免疫力が落ちる傾向があることも知られている。無麻酔での去勢も、スイス、ノルウェー、カナダ、スウェーデン、オランダ、ドイツで禁止または禁止予定になっており、EUでも18年に「原則」廃止を目指している。

命絶たれる時

豚たちは、6か月間飼育されると(体重は約110キログラム)、出荷され、殺される。豚の6か月というのは、ちょうど思春期にあたり、人間で言えば高校生だ。不衛生で、狭く、退屈で、苦痛とストレスに満ちた環境で飼育された結果、彼らの約75パーセントは胃潰瘍を患う。豚は環境にも順応しやすい動物だといわれるが、工場畜産にはまったく順応できていない。

関東のある食肉処理場に運ばれてきた豚たちは、スタンガンを何度も押し当てられ、棒で殴られ、蹴られながら追い立てられていた。係留場に入ると、冷たいシャワーが彼らの体についた糞尿を洗い流す。日本の豚の食肉処理場の86・4パーセントには水飲み場がなく、糞尿混じりの水を、コンクリート床に口を当てて舐めるように飲む。それが豚たちが最後に口にするものだ。スタンガンを何度も押し当てることも、水が常時飲めないことも、国際基準に反しているが、国は改善に取り組んでいない。

私たちにできること

運動もできず、日光にも当たれず、ストレスの高い環境の中で、豚を出荷まで死なさないためには、抗生物質を医薬品や飼料として与え、漂白剤や消毒剤を大量にまく他に方法はない。そういった不自然な飼育は動物の健康を損ない、それは食の安全をも脅かすという考え方が、今や国際的なスタンダードになりつつある。

私たちは、動物のためにも、人のためにも、自分たちの食の選択を見直すことができる。たとえば、より自然な飼育のものを選ぶとか、肉の消費を減らしてみるといったことだ。英国出身の世界的なミュージシャンであるポール・マッカートニーが推し進め、世界中の公的機関や学校も取り入れはじめているミートフリーマンデー(週に一日お肉を食べない)を試してみることも大きな一歩になるだろう。

(注2)公益法人畜産技術協会 豚の使用実態アンケート調査報告書(2015年3月)