翁長雄志沖縄県知事が10月13日に出した辺野古新基地の埋め立て承認取り消しは、長く沖縄の人たちが望み続けてきた悲願だった。しかしそれを、また国家が踏みにじった。辺野古新基地反対の民意は、選挙でも明らかになっていることだ。それなのに法を乱用し、民意まで奪おうとする国家。市民らはいつまでしいたげられ、体をはって闘い続けることを強いられるのか。

写真/広河隆一 まとめ/大野真、丸井春(共にDAYS JAPAN)
Photo by Ryuichi HIROKAWA Edit by Makoto ONO, Haru MARUI
話/北上田毅(沖縄平和市民連絡会、ヘリ基地反対協抗議船船長)
Interview with Tsuyoshi KITAUEDA

11月4日、キャンプシュワブ・ゲート前に初めて東京から警視庁機動隊が投入され、約100人だった警備が、200人にと倍増した。衝突と挑発は激化し、公務執行妨害容疑で現行犯逮捕された人、救急搬送される人が続出した。非暴力の抵抗は5日朝も続き、辺野古新基地建設反対の座り込みをしていたおよそ50人の非暴力の人々は、機動隊に強制撤去させられた。これを政府による新たな「琉球処分」だという声が囁かれた。写真は全て米軍基地キャンプシュワブ・ゲート前。11月5日朝7時ごろ
11月4日、キャンプシュワブ・ゲート前に初めて東京から警視庁機動隊が投入され、約100人だった警備が、200人にと倍増した。衝突と挑発は激化し、公務執行妨害容疑で現行犯逮捕された人、救急搬送される人が続出した。非暴力の抵抗は5日朝も続き、辺野古新基地建設反対の座り込みをしていたおよそ50人の非暴力の人々は、機動隊に強制撤去させられた。これを政府による新たな「琉球処分」だという声が囁かれた。写真は全て米軍基地キャンプシュワブ・ゲート前。11月5日朝7時ごろ Photo by Ryuichi HIROKAWA

国が法を乱用し、市民に暴力をふるう

私たちの政府はどこまで冷酷なのか。

10月13日、翁長知事はついに、仲井真弘多前知事が出した「辺野古埋め立て承認」の取り消しを決定した。それに対し、事業者である沖縄防衛局長は翌日、国交大臣に知事の埋立て承認取り消しの行政不服審査請求と執行停止を請求。翁長知事は21日に全文950ページ、証拠3000ページに渡る意見書と答弁書を国交大臣宛に送付したが、27日、国交大臣は失効停止の決定をすると同時に、地方自治法に基づく代執行の手続きに入った。

それを受けてすぐに始まった辺野古での工事。キャンプ・シュワブのゲート前では、工事車両の搬入を阻止しようと必死に抵抗する市民らを、本土から集められた数百の機動隊が力ずくで排除する。そこに沖縄の人々への思いやりなど一切ない。身体をはって抵抗する人々を、文字通り地面から引きづりはがしていく。

人々が正面ゲート前で抗議行動をおこなう横を、米軍車両が基地に入る。県警の車両が頻繁に、人々の立ち退きを呼びかける。市民側は、最後の警告もしないでいきなり襲いかかかる警察のやり方ではけが人が出ると抗議し、そのあと人々は立ち上がってデモをしたのちにこの場を離れた。
人々が正面ゲート前で抗議行動をおこなう横を、米軍車両が基地に入る。県警の車両が頻繁に、人々の立ち退きを呼びかける。市民側は、最後の警告もしないでいきなり襲いかかかる警察のやり方ではけが人が出ると抗議し、そのあと人々は立ち上がってデモをしたのちにこの場を離れた。 Photo by Ryuichi HIROKAWA

10月30日、東京永田町の参議院議員会館で、新基地建設工事の着手に抗議する緊急集会が開かれた。この集会で、連日辺野古での抗議行動を続けている北上田さんは、新基地建設の埋め立て工事は、法律に照らしても違法性が高く、いかに権力の乱用であるかを、国による行政不服審査請求の違法性、執行停止と代執行の不当性、本体工事着工の手続き上の問題を挙げながら説明した。

建設車両がゲート内に入るのをとどめるために、早朝6時ごろから身を挺して座り込んだ人々に、機動隊員が襲いかかり、ごぼう抜きした。人々は「警視庁機動隊は東京に帰れ」と声を上げ、「沖縄を返せ、沖縄に」と歌った。
建設車両がゲート内に入るのをとどめるために、早朝6時ごろから身を挺して座り込んだ人々に、機動隊員が襲いかかり、ごぼう抜きした。人々は「警視庁機動隊は東京に帰れ」と声を上げ、「沖縄を返せ、沖縄に」と歌った。 Photo by Ryuichi HIROKAWA

行政不服審査請求の違法性

北上田さんは、防衛局が出した行政不服審査請求は本来、行政不服審査法に基づく行政不服審査制度の目的が「国民の権利救済」である点で、今回の請求が不当だということも指摘した。

行政不服審査法とは、「私人である個人が、行政や国家権力によって不利益を被る場合にのみ、国民を救済する」法律だ。つまり、私人の立場でなければ、この法律に訴えることはできない。仲井真前知事による埋立承認を受けたのは、当然「国」という固有の立場でのものである。しかし国では行政不服審査法を使えない。どうしたか。国として埋立工事を進めていた防衛局が「私人」になりすまし、本来は「国民を救済するための」法を使って審査請求したのだ。あまりに傍若無人のこの国のやり方には、行政法の研究者らかも異議が唱えられている。

「(辺野古新基地を)国家として押し進めてきたことは明らかでしょう? 日米合同会議で臨時制限区域を設定したことなど、すべて一般私人が立ち得ない国家としての立場でしてきたはずだ。なぜ急に私人になるのか」。北上田さんも怒りを隠さない。

執行停止、代執行の不当性

また、防衛局は、知事による埋め立ての承認取り消しを、①普天間飛行場周辺に居住する住民などが被る事故等に対する危険性や騒音などの被害の継続や、②米国との信頼関係や日米同盟に悪影響を及ぼす可能性があるという外交・防衛上の不利益が生じる可能性があるという理由で国交大臣に執行停止を申し立て、国交大臣もこの主張をそのまま認めた。

しかし、普天間飛行場の基地被害や騒音による被害と言うなら、国はそれを何年も無視し続けてきたのではなかったか。北上田さんは言う。「そもそも執行停止の要件というのは、重大な損害を避けるための緊急な措置が必要な場合にはじめて行政不服審査法で執行停止の余地があるわけです。さらに、仲井真前知事による埋立承認の際、政府は〈普天間基地の5年以内の運用停止〉を約束したはずだ。その約束はどうなったんだ、ずっと放置し続けてきたのではなかったか」

加えて、政府が閣議決定した「代執行」の手続きにも法律上の問題があると北上田さんは指摘する。

政府は、27日の閣議で、知事が埋め立て承認の取消しを取り消さない場合には、最終的に、国交大臣が知事の変わりに取消す「代執行」の手続きに着手することを決めた。そして、翁長知事の埋立承認の取り消し処分は「違法」であり、「著しく公益を害する」とし、「5日以内に取り消し処分を取り消すように」という是正勧告を行なった。

北上田さんはこれに対して、以下のように語る。

「国は知事に対して埋め立て承認の取り消しを求める是正勧告をして、それが適わない場合は裁判に訴えて代執行の手続きに入る。そういうことまで踏み切っているわけです。(中略)沖縄県は、防衛局が出した行政不服審査請求に対して、膨大な意見書を出しました。これは県として検討に検討を重ねて作り上げた意見書です。ところが、1週間もしないうちに国土交通大臣が執行停止を決定し、その時に出された文書はわずか4頁。この短期間で意見書はきちんと読まれたのでしょうか。今さら沖縄県が何を言おうが関係ないというかたちで執行停止を決めてしまっているように思います」

さらに続ける。「代執行の手続きというのは地方自治法の手続きで、行政庁がおこなった処分が違法であり、ほかにそれを是正する手段がないときに(解決の手段がない時に)初めて手続きに入ることができるのです。今、国交大臣は県に執行停止を出しましたね。つまりこの行政不服審査請求で裁決が出れば、それで国の本来の目的は達せられるわけです。今国がやっていることは、一方で、国が自ら行政不服審査請求をして翁長知事の承認取り消しを一時停止させておきながら、一方で代執行の手続きに入った。論外としかいいようがないじゃないですか。

琉球新報は6日の社説で、「非暴力に徹した抗議行動に対する不当弾圧。市民の人権を脅かす過剰警備は即刻辞めるべき」と書いた。警視庁機動隊は沖縄の抗議行動に対して、すぐに熱くなり、人々に暴力をふるい、それを県警の公安刑事に止められるという一幕もあった
琉球新報は6日の社説で、「非暴力に徹した抗議行動に対する不当弾圧。市民の人権を脅かす過剰警備は即刻辞めるべき」と書いた。警視庁機動隊は沖縄の抗議行動に対して、すぐに熱くなり、人々に暴力をふるい、それを県警の公安刑事に止められるという一幕もあった Photo by Ryuichi HIROKAWA

防衛局のごまかし、本体工事は始められない

辺野古での工事が始まった翌日、各紙朝刊の見出しには大きく「辺野古 埋立本体工事着工」という文字が踊った。しかし北上田さんは「あれは本体工事ではない。本体工事はあくまでも海についての埋め立て工事。それについては知事のいろんな認可が必要で防衛局はまだ始められる目途はたっていません。それなのに防衛局はマスコミ各社に本体工事着工というファックスを流した。そうやって沖縄の人たちに辺野古を諦めさせるようとしてるんです」と言う。

本体工事に着手できていない理由として、北上田さんはキャンプ・シュワブ周辺の工事の前には文化財の調査に入らなければならないことを指摘した。「シュワブの周辺部などでは以前の予備調査でたくさんの文化財が見つかっています。文化財保護法というは非常に厳しい法律で、文化財の調査が終わるまではその場所の工事には一切入れないんです」

名護市教育委員会は7月7日から試掘調査に入ったが、試掘ポイントは11地区331か所にのぼる。「調査はまだ一割ほど。いまは工事用の仮設道路のところの調査に入っています。ですから、本体工事に入ったというのはありえないことで、30日には何をしたかというと、米軍兵舎の解体工事で出たコンクリートガラなどが積まれていたところの片付けを始めたというのが作業内容なのです」

その他、本体工事の前には、防衛局は汚濁防止膜(海などの埋め立て工事で発生する汚濁を拡散させないようにするための、重りのついたカーテンのようなもの)を海中に設置するために286個もの巨大なコンクリートブロック(最大57㌧)を投下しなければならない。当然、自然を破壊することから、そのためには知事の岩礁破砕許可を得る必要がある。さらに土砂規制条例や、改正予定の県土保全条例などに基づく規制もある。

とはいえ、今回の執行停止や代執行の手続き開始に関しては、今後、それぞれ国と県とで裁判が始まることが予想されている。

民意を無視した国が、さらに法をも無視して新基地建設を強行しようとしている。権力を濫用した横暴を決して許してはならない。